「クロノポリス」考察

「クロノポリス」が多くの再登者を迎えているらしく、初登者としては嬉しい限りです。

この課題名はJ・G・バラードの作品名から拝借しました。直訳すると「時間都市」です。

ひと昔前、こさいつなに通った頃、交流のあった方々はどうされているのか。この地をボルダリングエリアとして紹介した吉田和正さんとはもうお会いすることができません。SJさんは相変わらず意気軒高らしい。ボル中さんの貴重な「ピーター」動画は観れなくなった。他の方々はクライミングを続けているのだろうか。

私が諸事情によりこの地を離れているあいだに、「シャドウゲーム」や「松葉」は跡形もなく消えました。あの大岩は2019年秋の大型台風で背後の地盤が崩れ、自重を支えきれず大破したと推測されます。

2024年2月に再訪し、「ヒラリーカンテ」(今も登れます)の岩の上に立って、時の流れをかみしめているとき、目に飛び込んできたのが「こしゃくなマントル」改め「クロノポリス」の岩でした。

この岩の前に何の予備知識もなく立ったとき、どれくらいの割合の人が右手クロスを発見できるでしょうか。トリッキーでダイナミックな初手、ヒール&トウが効いていないと保持できないリップ、仰向けに伸び切った体勢でユニークなハンドトラバース、微妙なマントル……とボルダリングの面白さが詰まっています。「Z」をなぞるシンメトリカルな動線は「美しい」とまで思います。

マントルについては、小さい人は手前のホールドで簡単に返せます。デカい人は奥のホールドに届きます。私と同じくらいの体格の方が、このマントルで苦労しているのを見かけました。下部は問題ない。上部のマントルはそこだけやればできる。ところが、スタートからつなげると、どうしてもマントルを返せない。2~3時間トライされたあげく、ついに諦めてクラッシュパッドをたたまれていました。

私もマントルで悶絶したのでその気持ちがよくわかります。かてて加えて、初登時には足元の尖った岩をまだ撤去しておらず、何度も恐怖心からマントルを中断しました。マントルがうまい人なら重心移動と手のひらで返すのでしょうけどね。

この課題を初登できたのは幸運です。この岩は、私に初登されるために、岩の墓場の片隅で何年も待っていたのだと勝手に思い込んでいます。

こんな美しい課題(自画自賛)を再登したにもかかわらず、第一声が「グレード批評」や「一撃自慢」だというのは何とも味気ない話ではありませんか。この課題に限った話ではありません。ふだんからそう考えているので、第二登したuanmさんの「開拓者に感謝!」という言葉は嬉しかった。きっと私が初登したときの感激を追体験していただけたのだと思います。

ともあれ、まだ登っていない人は、今のうちですよ。

また大きな台風がやってきて、この課題を押し流してしまうかもしれません。

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