ロッキーロード(12a)の最初のトラバースは、ムーブの難しさよりも恐怖との闘いになる。常人の神経ではブルースパワー(11c)の1本目のボルトにクリップするであろうが、トポを見る限りロッキーロードの真の1本目はトラバースした向こう側である。心理的には遥か遠くに霞んで見える。左下のボルトはシルクロード(12b/c)の最後のボルトである。昔の「岳人」で、杉野保さんがクリップなしでトラバースし、まだ1本目をクリップしていない体勢でビレイヤーに振り返りニヤリと笑う写真を見たときには震撼した。もし途中でスリップしたら? 下は虚空であるからグランドフォールはないものの、ビレイヤーから伸びるロープはテラスの尖端にぶつかり、クライマーの体重を重石として振り子となり、切れる可能性が高い。
■ 8月11日(土曜日)
前夜発テント泊。マラ岩は大盛況。ロッキーロードを登るつもりであったが、虚空のテラスを共有するブルースパワーに終日クライマーが取り付いており、なかなか割り込んでいきにくい。いっそシルクロード(12b/c)から繋げたほうが、トラバースの恐怖を味わわずに済むのではないか。というわけで懲りもせず南面の取り付きにロープバッグを移動。
1トライ目。すでにヌンチャクが掛っていたので核心直前の6本目までは抜かりなく。核心をスキップして先を急ぐ。トラバース後、最初の右手クリップホールドは日射でヌメっており厳しい。バンドに立ち込み後も、次の右手クリップホールドがやけに遠く感じた。わずかな凹凸を中継し、バランスで堪えて、右手リーチいっぱいで届いた記憶がよみがえる。しかしこのヌメりでは……。ロッキーロードの(真の)2本目までヌンチャクを掛けてロワーダウン。50メートルロープだと、取り付きの1.5メートル高のテラスまでぎりぎり届く。
さて、ヌンチャクも掛けたことだし、再びロッキーロード。結果は、恐怖に負けて、1本目にクリップできず。必死でシルクロードのヌンチャクに手を伸ばしてぶら下がる。駄目だこりゃ。20世紀を振り返ると、もちろんブルースパワーの1本目にはクリップしたものの、マスタースタイルで完登した。当時より力はついているはずなのに、この体たらく。どうしてくれよう。明日も来るので、ヌンチャク残置を決定。
代償として、「シルクロードの2トライ目で下部テンション」のジンクスを破ることに今日のテーマを見出す。炎天下にもかかわらず、無事6本目まで繋がる。
松ちゃんは珍しく仕事の忙しさ?で体調不良。ノーモア・レイン(12a)に1トライ目でヌンチャクを掛けた以外は、トップアウトせずに一日を終えた。
早仕舞いして買出し。ナナーズのあたりだけ地面が濡れている。局所的な雨? レジ袋を提げて外に出ようとしたら、突如として土砂降り。軒先のベンチで茫然と時を過ごす。キャンプ場も水びたしだろうか。……と思いきや、ナナーズから数百メートル走ったら、道路は乾いていた。
17時を過ぎると日が翳り、涼しくなる。明日は午後の数時間を昼寝でもして過ごし、17時以降に勝負を賭けようか。
■ 8月12日(日曜日)
松ちゃんは昨晩、大学の後輩連と焚き火と酒盛りに興じ、代謝しきれぬアセトアルデヒドの匂いをぷんぷんさせながら現れた。午前中、カラリとした青空が広がり、絶好のコンディションだというのに、終日昼寝していた。
私が持参したナチュラル・プロテクションはロックス2個。ロッキーロードのクラックに決まるのか遠目には判断がつかない。レギュラー(10b/c)を登り、懸垂下降して確かめることにした。クラックの上部にバチ効きする箇所を発見したけれど、下のボルトからかなりランナウトする。20世紀に登った際にはキャメロットを使ったのか。記憶が定かでない。
虚空のテラス側に振って降りるつもりであったが、ブルースパワーではハングドッグの真っ最中。ふと気づいたら、シルクロードをトライ中の人もいる。ジャガーノートのボルトで振られ止めをして、長いこと宙ぶらりんで居た。シルクロード屈曲点のボルトで結び替えして地面まで降りた。お騒がせしました。
ブルースパワーが空いた隙に、ジャガーノート(11d)の3本目までヌンチャクを掛け、トップロープ状態でロッキーロードのトラバースを練習した。ミットモナイけれど、これが一番効率が良い。
17時過ぎ。あれれ。まだ陽が燦々と照っているではないか。そりゃそうだ。山裾とは訳が違う。この状態で終了点までムーブを探っていたら、日が暮れてしまう。回収しよう。レギュラーを登り、ヌンチャクを回収しながら降り、トップロープ状態で登り返す。リッジを乗り越し、ロッキーロードの終了点にロープを通す。レギュラーの終了点を外す。縄跳びのようにロープをカンテ越しに回すと、ロッキーロードのトップロープが完成する。無事回収。
今日はレギュラーばかり登っていた気がする。
■ 8月13日(月曜日)
松ちゃんのビレイに徹する。松ちゃんはノーモア・レインをワンテンに持ち込み、手ごたえを掴んだ模様。私は先に帰るけれど、今回滞在中にしっかり完登できるであろうか。
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