白妙橋。
ウォーや吉野街道など弱点は濡れているものの、壁は良い状態になった。
「登攀自粛」のその後の経過はどうなったのであろうか。
今日の目的はこちら。
白妙橋にボルダーに来るとは思わなかった。貸し切りだ。空いているのを狙って来たのに、誰も居ないとそれはそれで寂しい。急に肌寒くなった天候とあいまって、意気が上がらない。
氷山岩のやさしい課題から順に登る。右側のリップトラバース(6級)はなかなか歯ごたえがあった。石灰岩の外傾したペタシ。水量が多いので、落ちると足元が水浸しだ。
釣り人が通りかかる。
「沢登り?」と聞いてくる。
「いいえ、この岩を……」
「あっちに大きな岩があるよ」と正面壁を指差す。
「登攀自粛中なんですよ」
釣り人は怪訝な顔をした。いずれ普通の人には理解の出来ない世界である。
氷山岩の右側のマントル(2級)に取り付く。うわっ、すべすべだ。こんなペタシでマントルを返せるのかいな。リップにしばらくぶら下っては降りる、を延々と繰り返した。
「これはコントロールされたクライムダウンである。フォールではない。オンサイトトライ継続中」と自分を納得させる。
ふと気づくと、橋の上に三脚を立てて、カメラを構えている人が居る。たぶん構図には私が含まれている。自然の造形で遊ぶホモサピエンス。四つ足から進化した挙句に、また四つ足でしがみつく幼態成熟? 見映えのする動きができなくて申し訳ないけれど、身体が上がらないったら上がらない。
やがてまた一人になった。せめて記念撮影しよう。カメラを三脚にセットして、録画ボタンを押す。
登れた。みっともない動画にしたくない、という意識が働いたから? 現金なものだ。右手の持ち方を工夫した。小指側のラップを利かせて手首のあたりまで巻き込むと引き付けることができる。
次は「アイス・キューブ」(1級)のホールドをさぐる。ルーフ下からつなげるとカッコいいムーブになりそう。ワクワクしながらトラバース部分を試すと、足がスリップ。湿った砂地にまんまと嵌った。シューズがどろどろ。がーん。
300mほど下流の「にら」岩を見学。黒本に正面から撮影した写真がある。横から見るとすごい傾斜だ。
この傾斜でこのホールドかぁ。三段だものなぁ。カンテを抱き込むように、バシバシ手を出していくらしい。マットがないと背中や頭から落ちて怪我しそう。でも初登者はきっとマットを使っていない。先人のチョーク跡もなく、登れるか登れないかわからないのに、こんな谷底の岩に通ったのだ。
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