壁の中にいる時間を短くする、という戦略

もうずいぶん昔の話であるが、小山田大さんのメランジ(小川山マラ岩)完登の模様が「ザ・
チャレンジャー」というテレビ番組で放送された。その中で「だいたい1分半くらいで登ってるんですけど、
それでも僕の今の力では遅いって感じなんですよね。だからもっとペースを上げないと、すぐ前腕がパンプしちゃうっていうか、
疲れて落っこっちゃう」と語っていたのが印象深い。

壁の中にいる時間を短くする、という戦略は重要だと思う。

この戦略が功を奏した経験が一度ある。北川の岩場にある錦ヶ浦。前半は薄かぶりのボルダー、
後半はどっかぶり。中間部にあるピナクル状のガバで長時間レストするのだが、完全に回復することはなく、えいやっと後半に突っ込み、
最後のルーフを乗り越すところで微妙に力尽きる、というトライを何度となく繰り返した。全ムーブが固まり、自動化しているのだが、あと一歩、
力が足りない。そこで考えた。まともに休める場所がない前半のセクションをスピードアップしてみよう。すると、
中間部のガバで左右の手を入れ替えてしつこく休んでいるうちに、完全に回復した。レストの仕方がうまくなったわけではない。
そこに至るまでの消耗が少なかった。すなわち「回復のための余力」があったのである。まるで今ルートの取り付きに立ったかのように、
呼吸もおさまり、前腕もフレッシュな状態。頭上にはルートの半分を残すのみ。ルーフ下のレストでもゆったりとシェイクする余裕があり、
確信をもってルーフを乗り越すことが出来た。

コメント

  1. きん より:

    同感です。力×時間=パワー。この積分されたパワーをセーブするということですね。ただ、速過ぎると大きな力を逆に使ってしまうので、あくまで流れるような動きで滞りなくスムーズにという感じなんでしょうね。日ごろジムでスピードを意識してトレーニングしていないと実践では出せないですよね。先日、H田氏の乾杯RPを見ていましたが。H田さんは、いつもですが、ムーブが速くて、それでいて驚くべきスムーズさです。スピード戦略を証明してくれてると思います。

  2. 無名クライマー より:

    小山田さんのメランジも30秒くらいで登っている印象なのですが、実際には軽く1分を超えています。ルーフに近い前傾壁に長時間はりついていたら、どんなにムーブを洗練しても疲れますよね。

  3. より:

    ようやく日本語が使える環境になりました。
    最近はリハビリに専念してらっしゃる様子ですね。カンボジア滞在を短くしたので21日に日本に帰ります。K師の体調如何ですが、24,25日辺りどこかの岩場に如何でしょう?
    ビレイの件、充分気を引き締めてまいります。

  4. 無名クライマー より:

    年度末で相変わらずお忙しモードでですが、暦どおりに休めます。灼熱の石灰岩で鍛えたパワーを見せてください。